金沢大学人間社会研究域附属 グローバル文化・社会研究センター

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[学会発表報告]2024年6月2日「日本映像学会第50回全国大会」/久保豊准教授(国際学系/グローバル・レジリエンス部門)

 2024年6月2日、久保豊准教授(国際学系/グローバル・レジリエンス部門)が九州産業大学で開催された「日本映像学会第50回全国大会」にて、口頭発表「同性愛的欲望のレシピの継承/切断─2010年代以降の日本のゲイ映画における食表象」を行いました。この口頭発表は、科研費「クィア映画にみる食習慣:米国のLGBT映画祭プログラムに関する研究」(若手研究)の成果の一部です。

発表要旨:

 近年、性的マイノリティを主要登場人物として描く視覚文化(映画、テレビドラマ、漫画など)には、物語の大きな主題として、あるいは物語進行を促す小道具の一つとして、食事の準備・配分・消費・片付けの過程を用いる作品が増えている。この傾向は例えば、中年のゲイカップルの日常生活を描く『きのう何食べた?』(201920202023)、共通の関心である食を契機に近所付き合いから恋愛へと発展する女性同士の関係を描く『作りたい女と食べたい女』(20222024)、アロマンティックの女性主人公が料理を振る舞う『今夜すきやきだよ』(2023)など、漫画原作の人気テレビドラマに顕著である。これらのヒット作品は、グルメ漫画を映像化するメディアミックス的な産業戦略の成功から強い影響を受けているものとして考えられるだけでなく、食という枠組みの中で性的マイノリティを描く映像作品の需要拡大を示唆する。しかしそれは同時に、もし食のイメージが「非規範的」とされてきたセクシュアリティを生きる人々の経験を一般観客の嗜好に合わせ、消費しやすい形式へと味付けするものだとすれば、その味付けのレシピを使った性的マイノリティ表象の消費構造は何を見えなくさせてしまうのか。

 本発表では、こうしたテレビドラマの同時代的な傾向を留意しつつ、『怒り』(李相日、2016)、『his』(今泉力哉、2020)、『劇場版 きのう何食べた?』(中江和仁、2022)、『エゴイスト』(松永大司、2023)など、2012 年頃に始まったとされる「LGBT ブーム」以降に日本で製作・公開された(広義の)ゲイ映画を分析対象とし、映画と食に関する先行研究を参照しつつ、(ときにエロティックな)同性間の親密さや欲望の在り方をスクリーンに描くうえで、食のイメージが果たす社会文化的・美学的・政治的な意義を明らかにする。その過程で、人類学や社会学の影響を受けたフード・スタディーズの重要概念の一つである「フードウェイズ」の視点を援用し、男性同士がともに老いていけるかもしれない将来の成就に対する憧れと同時にその失敗に対する恐れをめぐる食表象のダイナミクスを探求し、現代のゲイ映画が 1980 年代から 2000 年代のゲイ映画に見られた食表象の系譜をどのように引き継いでいるのか/からどのように切断されているのかを検討する。